先日、とあるご家族の家族の信託の契約組成が無事に完了し、公正証書までたどり着くことができました。
無事に終わって、そしてこのご家族にとって「良かった」という言葉が、いちばんしっくりきます。
最近、家族の信託のご相談は少しずつ増えています。
ただ、その一方で「もう少し早ければ…」というケースがとても多い。
すでにご本人が認知症と診断されており、法的に契約が組めない。
そうなってから、家族や身内の方が慌てて動き出す。
これは、決して珍しい話ではありません。
「早めに資産管理の準備を」
そう分かっていても、
・いつ認知症になるか分からない
・縁起でもない話は後回しにしたい
・日々の生活に追われてしまう
結果として、話し合いのタイミングを逃してしまう。
家族の信託は、そういう“後回しにされやすいテーマ”でもあります。
今回私が関わらせていただいたのは、
80代のご夫婦を、50代の娘さんが見守るかたちでの信託契約でした。
決して、すんなり進んだわけではありません。
何度も話し合いを重ね、迷い、悩み、紆余曲折を経て、
それでも最終的には、ご家族みなさんが納得する形で、公正証書まで完了しました。
家族の信託の中でも、特に大きなテーマになるのが
「不動産を信託財産に入れるかどうか」 です。
思い出の詰まった自宅。
簡単に割り切れるものではありません。

信託は、ある意味で「事前の遺言」の性格を持っています。
ご本人が元気なうちに、
・財産をどうしてほしいのか
・何もしてほしくないのか
・子どもに任せたいのか
そうした想いを、直接聞くことができる。
これは、残される側にとって、何にも代えがたい時間です。
亡くなってから「本当はどう思っていたんだろう」と考えても、
もう聞くことはできません。
生前、元気なうちに、きちんとコミュニケーションを取れていること。
それは、ご本人のためでもあり、
家族が同じ方向を向くための、大きな支えにもなります。
迷いが減り、判断に軸が生まれる。
「家族で一丸になれる」という感覚は、実際に関わってみて、何度も感じるところです。
実は、私自身も、父と家族の信託を結んでいます。
きょうだいも含め、今はみんな安心しています。
そのきっかけを作ったのは、今は亡き母でした。
母が強く動いてくれたからこそ、今があります。
そのことを思うたび、母の愛の強さを感じずにはいられません。
誰かが一歩踏み出せば、
少なくとも、悪い方向には進まない。
信託を「知っていて使わない」のと、
最初から「何も知らない」のとでは、
その先に広がる未来は、まったく違います。
今回のご家族も、
「親世代」と「次の世代」が、これからのことを一緒に考えるきっかけになりました。
話し合いの末、最終的には自宅を手放す方向となり、
その片付けも含め、今後の道筋がはっきりと見えてきました。
お話の中で、ご両親から、戦争の記憶も聞かせていただきました。
お二人とも太平洋戦争を生き抜き、
お父様は、原爆投下時、7歳。
「運が良くて、生き延びたんです」
そう静かに話される姿が、今も心に残っています。
打ち合わせの最後に、
「今回、依頼して本当に良かった」
そう言っていただいた瞬間、
私は、涙をこらえながら話を聞ききました。
行政書士として。
一人の娘として。
家族の信託は、単なる制度ではなく、
家族の時間と想いをつなぐもの だと、改めて感じています。
もし、これを読んでくださっている方が
「まだ元気だから大丈夫」と思っているなら、
ぜひ一度、ご家族で話をしてみてください。
何かが起きてからでは、できないことが、確かにあります。
家族の信託契約組成のみならず、相続全般のご相談に対応しております。どこに相談して良いのか分からない、という場合の最初の窓口になります。
人生100年時代、資産管理(終わり方)も今元気なうちに考えておきましょう。

